菊はその清廉な香りや気品が愛され、古くから、詩歌や絵画などの題材として多く取り上げられてきました。
種類もたいへん多く、色も形もさまざまなものがありますが、その異名の多さにも驚かされます。
五十音順に挙げてみると、
いなて草
隠逸花(いんいつか)
陰君子(いんくんし)
翁草(おきなぐさ)
乙女草(おとめぐさ)
形見草(かたみぐさ)
河原蓬(かわらよもぎ)
草の主(くさのあるじ)
黄金草(こがねぐさ)
大般若(だいはんにゃ)
契草(ちぎりぐさ)
重陽花(ちょうようか)
千代見草(ちよみぐさ)
日精草(にっせいそう)
初見草(はつみぐさ)
星見草(ほしみぐさ)
優草/勝草(まさりぐさ)
鞠花(まりばな)
百世草/百夜草(ももよぐさ)
齢草(よわいぐさ)
など、まさか菊のことだとは思わない珍しい名前がたくさんありますね。
このように、いろいろな点で変化に富んだ菊だけあり、上生菓子で表現された菊花の種類の多さにも目を見張るのもがあります。
今日は、いろいろな製法、素材、意匠の菊の和菓子を集めてみました。
製法による表現の違いをじっくりお楽しみください。
<煉切製>
製法として圧倒的に多いのは、やはり、煉切製ですね。
その中の代表格は、「はさみ菊」ですが、別項目にまとめて取り上げましたので、今日はそれ以外の技法で作られたものを紹介します。
煉切の醍醐味は、なんといっても、ヘラや指を駆使して手技で創り上げる「手形もの」にあります。
「乱菊(らんぎく)煉切製:いづみや
ヘラと指のみで乱菊の踊るような花びらを一枚一枚形作っています。
「菊花(きくか)」煉切製:成城風月堂
同じくヘラと指のみでかたどったお菓子ですが、抽象的な造形が特徴です。
「小菊(こぎく)」煉切製:森八
花びら型を押してシンプルに菊花を描いています。
「里の菊(さとのきく)」煉切製:塩野
茶巾絞り仕立てで表現した逸品です。
「乱菊(みだれぎく)」煉切製:つ久し
スプーンを使った「さじ切り」技法による作品です。
「富貴(ふうき)」煉切製:金米堂
小田巻という道具で麺状に加工した煉切を効果的に使っています。
「新菊(しんきく)」煉切製:志むら
とても繊細な彫りの木型で押したお菓子です。
<こなし製>
「小佐女菊(こさめぎく)」こなし製:とらや
こなし生地を木型で押し抜いた逸品です。
<求肥製>
求肥はその生地の特性上、細かい細工はできないので、ざっくりとした意匠になってしまいます。
「玉菊(たまぎく)」求肥製:美鈴
○(丸)の中に・(点)だけという極度に簡素化された光琳菊を模しています。
<外郎製>
「園の菊(そののきく)」外郎製:鶴屋吉信
緑色に染めた外郎生地の周り全体に、白いそぼろをまぶしています。
「まさり草(まさりぐさ)」外郎製:鶴屋吉信
二色に染め分けた外郎生地を重ね合わせ、小豆粒餡を包み、七枚の花弁の形に折りこんでいます。
<きんとん製>
「星見草(ほしみぐさ)」きんとん製:豊島屋
紫と白にぼかし染めたきめの細かいそぼろを、小豆つぶし餡のまわりに植え付けています。
<薯蕷製>
「菊花(きっか )」薯蕷製: 福壽堂秀信
皇室の紋章である十六弁の菊花をかたどっています。
「小菊(こぎく)」薯蕷製:豊島屋
薯蕷饅頭に焼印で菊花を描いています。
<錦玉製>
「菊畑(きくばたけ)」錦玉製:一炉庵
菊の花形に抜いた羊羹を錦玉の中に配置した逸品です。
<淡雪羹製>
「菊づくし(きくづくし)」淡雪製:菊家
色とりどりの羊羹を菊の花形や短冊状にかたどったものを淡雪羹の中に散りばめたお菓子です。
<焼皮製>
「しののめ菊(しののめぎく)」焼皮製:鶴屋吉信
二色の焼皮を重ね合わせて小豆つぶ餡を包み、花びらのように折りたたんでいます。
羊羹製の菊はまだお目にかかったことがないので、次なる目標にしたいと思います。