菊はその花があまりにも華やかで存在感があるために、葉っぱのことは忘れられがちですが、辺縁がまるでリアス式海岸の地図のように複雑に入り組んだ菊の葉の造形もなかなか芸術的で惹かれるものがあります。
菊を表現した上生菓子の中で、特に葉っぱにも注目して表現したものを集めてみました。
「黄菊(きぎく)」煉切製:若葉堂
緑色の羊羹を菊の葉形にくり抜き、煉切製の菊の花に添えています。
通常菊花を表現した上生菓子で、添えられる葉っぱの占める割合は菊花全体の六分の一から五分の一くらいです。あくまで主役は花で、葉っぱは添え物の扱い。若葉堂の葉は大きめで、三分の一くらいの面積を占めており、花に負けないくらいその存在を主張しています。
「菊(きく)」煉切製:喜利家
緑と白の二色に染め分けた煉切で菊葉を象り、菊花に添えています。
菊の葉は表が濃い緑で裏側は白緑色で白っぽく見えます。この特徴を二色で表現しているユニークな作品。
「晩菊(ばんぎく)」薯蕷製:両口屋是清
薯蕷製で白菊を表現した一品ですが、生地に緑色の色素を刷毛で塗りつけて葉を描いています。
「よわい草(よわいぐさ)」きんとん製:彩雲堂
よわい草は菊の別称です。
きんとん製で表現した紫色の菊ですが、きめの細かい緑色のそぼろを添えて葉に見立てています。
「友禅菊(ゆうぜんぎく)」煉切製:秋色庵大坂家
菊の葉っぱのみをデザインした木型で押し抜き、型押しした菊花を添えたお菓子です。
菊の葉の美しさに注目し、葉を強調して表現した斬新な意匠です。
「菊づくし(きくづくし)」淡雪製:菊家
立方体の淡雪羹に、羊羹製の菊花を象嵌細工のようにはめ込んだお菓子です。
側面には葉に見立てた緑色の羊羹を埋め込んでいます。
「着せ綿(きせわた)」雪平・煉切製:ささま
緑色に染めた煉切で大きな菊の葉をつくり、餡を包み込んで丸めた雪平を挟み込んだお菓子です。
これほど、菊の葉のみを大々的に扱った作品は珍しい。きれいな弧を描く葉脈の表現も素晴らしい。この堂々とした佇まいは、ヨーロッパの王家の紋章のようにも見えます。
着せ綿とは、平安時代の風習で、重陽の節句の前日に、菊の花を真綿でおおって菊の香を移し、その翌日の朝にこの真綿で顔や体を拭いて、若さと 健康を保とうとする行事のことです。
「菊一葉(きくいちよう)」煉切製:一炉庵
こちらのお菓子はまさに菊葉が主役です。
花は無く、菊の葉っぱのみを精巧な木型で押し抜いたお菓子です。
菊葉は熱を加えても緑の鮮やかさが失われることはないことから、料理にも欠かせない。この特徴を生かして、和食の焼物料理に敷物として利用したり、天ぷらにしてもおいしくいただける。
見てよし、食べてもよし!