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「玉」の上生菓子

 

象形文字である「玉」は、3つの玉を縦にひもで通した形に由来します。よって本来は点がなくて「王」と書いていました。 

 

しかし他に、王様の「王」という漢字があり、この漢字は、天・地・人を表す3本の横棒を1本の縦棒が貫く形から来ています。 

 

王は天命に従って政治を行うから真ん中の横棒は天を意味する上の横棒に寄せて書くことになっていました。「玉」という意味の「王」の3つの横棒は等間隔に書くことで区別されていました。

 

ところが世間では、この違いを知らない人が多く、混乱を招くので、「玉」には点を付けて区別するようになったといいます。

 

こんな成り立ちのある「玉」ですが、他の言葉の頭につけて接頭語として使われることがよくあります。

 

美しいものや優れているものの頭に付けて、そのものを褒め讃える意味があり、玉手箱や玉垣(たまがき)、玉簾(たますだれ)、玉藻(たまも)のように使います。

 

 

今日は、菓銘にこの接頭語の「玉」、美称の「玉」がついた上生菓子を集めてみました。 

 

圧倒的に菊が多いですね。

 

 

「玉菊(たまぎく)」煉切製:彩雲堂 

白と薄紫色のぼかし染めの煉切に三角へらで筋目をつけ花弁を表現しています。

 

「玉」のように愛らしい菊を表現するために、花弁の筋付けはあえて四分の一のみにして、他の四分の三の部分を丸く作り、球面を強調しています。 

 

 

「玉菊(たまぎく)」煉切製:船橋屋 

紅・白・黄と彩りがあり、小粒の「玉」のような愛らしい菊を表現しています。

 

シンプルさの中にも、茶巾絞りで精妙な表情をつけているのが和菓子らしくていい。 

 

 

「玉菊(たまぎく)」求肥製:美鈴 

菊は上生菓子にたくさん使われる素材ですが、菓銘の付け方によって、作風、印象が全く変わるのがおもしろいです。

 

「玉」のような菊をより強調するために、葉っぱをあえて複雑にし、菊花の方は徹底的に単純化した丸で表現。その対比が見事です。

 

 

「玉椿(たまつばき)」外郎製:菊延舎 

シンプルな仕上げ。余分なことはしない。光沢のある外郎生地にまん丸の形がまさに「玉」のよう。 

 

菊延舎は、オリジナルの吹き寄せ(冨貴寄)で有名な、銀座の和菓子屋。創業明治23年です。 

 

 

「玉手箱(たまてばこ)」羊羹製:とらや 

四隅を折り、餡を包んだ意匠は古くから伝わるもので、愛らしい手箱を表わしています。小倉餡入。干菓子として宝永5年(1708)に初出の歴史あるお菓子です。

 

中にどんな宝物が入っているのか、開けるのにわくわくする手箱ですね。