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虫の音(一炉庵)

「虫の音(むしのね)」鹿の子製:一炉庵 

白小豆の鹿の子の上に薄黄色に染めた淡雪をまるくかけ、細長い羊羹製の葉を添え、虫に見立てた黒胡麻をのせたお菓子です。 

 

やわらかな黄白色に包まれる秋の夕暮れ時、草叢(くさむら)には澄んだ鈴の音のような虫の声が満ちています。 

 

虫たちの奏でる静かな音楽が、まわりの空気を震わせ、響き伝わる様子を、鹿の子のでこぼこした質感で見事に表現しています。 

 

 

一般に「虫」といえば、さまざまな昆虫の総称ですが、俳句の世界で「虫」といえば、秋に美しい声で鳴く虫の総称で、秋の季語になっています。 

 

外国人にとってはただの雑音にしか聞こえない虫の鳴き声に対し、日本人は、風情や趣を感じ、とても愛し、楽しみます。 

 

『万葉集』には、コオロギの声を愛でる歌が残されており、平安時代には貴族たちが虫を飼ってその声を楽しみ、江戸時代には「虫売り」という専門の商売まで現れたといいます。 

 

虫の鳴き声は、種類によって様々。鈴虫は「リーンリーン…」、コオロギは「コロコロリー…」、松虫は「チロチロチロ…」、キリギリスは「チョンギース…」、クツワムシは「ガチャガチャ…」。 

 

秋の夜長、虫たちの合奏を聞きながら、甘味のハーモニーもじっくり楽しみたいですね。