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ひととせに(佐藤屋)

 

七夕といえば新暦の7月7日というのが今では定番になっていますが、実はもう1回七夕があるのです。

 

それは旧暦による七夕で、「伝統的七夕」ともよばれています。

 

七夕の行事はもともと中国から伝わったもので、本来は旧暦に従って行うのが正式なのです。でも旧暦の場合、それを新暦に置き換えると、年によって日付がまったくバラバラになってしまい、煩雑なので、今ではすっかり新暦の7月7日で定着しています。 

 

旧暦の七夕を新暦に換算すると、2014年は8月2日ですが、2015年は8月20日、2016年は8月9日、2017年は8月28日というように年によって大きく変わるのです。 

 

新暦の7月7日はちょうど梅雨の真っただ中で、天気が悪く星が見えないことも多いので、晴れる確率の高い8月にもう一度チャンスがあるというのはラッキーです。 

 

そして、何より、七夕にちなんだ美味しい和菓子を2回も味わえるというのが嬉しいですよね。 

 

そんなわけで、今日は七夕のお菓子をお届けしたいと思います。 

 

「ひととせに」羊羹・錦玉製: 乃し梅本舗佐藤屋 

下層はピンク色に染めた羊羹、上層は柚子風味の錦玉の二層構造のお菓子です。 

 

新宿高島屋の和菓子バイヤーさんの発案で、山形の老舗「佐藤屋」さんが創作した逸品です。

 

羊羹にはなんと、イタリアのリキュール「ストレガ」が入っています。 

 

イタリア語で“魔女”という意味の名を持つこのリキュールは、シナモン、ペッパー、バニラ、ミントなど、世界各国から仕入れた70種類以上ものハーブや天然香料、スパイスが入っているのです。 

 

 

また、錦玉の中には、5色の煉切を小田巻という道具を使って糸状に押し出したものを配し、織姫の糸巻を表現しています。 

 

激しくねじれたり、複雑に絡み合う糸は、二人の揺れる心や募る期待を表しているようですね。 

 

さらに、錦玉の表面には「青海波文様」の型も刻まれています。 

 

 

半円形を同心円状に重ね、互い違いに配し、波のように反復させた文様で、穏やかな海原を表しています。

 

同じ模様の連なりから、絶えず打ち寄せる波のように、いつまでも平穏が続くことを願う吉祥文様として和菓子にもよく用いられます。 

 

ではでは、さっそく切り分けて、いただいてみましょう。 

 

 

お茶席でいただくことが多い上生菓子は基本、強い香りはつけませんが、このお菓子は開封したとたんに匂い立つ官能的な香りにまず驚かされます。 

 

ひと言では言い表せないような複雑な味も、いままで体験したことのない斬新な味わい。 

 

「伝統にのっとり、それでいて、いつでも和菓子をちょっと自由に」を信条とする佐藤屋さんらしい遊び心あふれる一品です。 

 

菓銘にもこだわりがあり、万葉集の中の一首にちなんでいます。 

 

”一年(ひととせ)に 七日の夜のみ 逢ふ人の 恋も過ぎねば 夜は更けゆくも” 

(一年に七夕の夜にだけ逢える人の、恋の時間が過ぎぬうちに、夜は更けていきます) 

 

一年に一度の逢瀬を心待ちにする二人の心情を、美しい彩と甘い香りに込めた素敵な逸品ですね。