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「永楽家」さん

 

私は休日によく海に出かけます。

 

海と言っても、釣りをしたり、マリンスポーツをするわけではないのですが、島育ちなもので、時折潮の香りが恋しくなり、ついつい海の方面に足が向いてしまうのです。 

 

特にお気に入りのエリアは葉山。 

 

神奈川県の三浦半島西岸にある海辺の街です。 

 

 

昔は半農半漁の名もない村だったそうですが、明治時代に、あるドイツ人医学者が、温和な海洋気候、美しい風光を気に入って別荘を建てたのを始まりに、少しずつ知られるようになり、その後、天皇ご一家の転地療養先として御用邸が建てられ、その名は広く知られるようになりました。 

 

今では実業家、学者、芸術家たちの別荘が建ち並ぶ高級保養地となっています。 

 

この街に来ていつも思うことは、都心から電車とバスを乗り継いで、わずか一時間半ほどで来れてしまうのですが、時間の流れが都会とは全く違うのと、豊かな自然が手厚く守り継がれていることにいつも感心します。 

 

おそらく、この地に天皇家の別荘があることが大きく影響しているのではないかと思っています。 

 

乱開発されることもなく、警官が24時間体制で付近を厳重に警備しているので、夏の海水浴シーズンでも治安が悪くなったり、風紀が乱れることもなく、静かにゆったり過ごせる貴重な穴場なのです。 

 

特に御用邸の目の前に広がる一色海岸は、私の一番好きなビーチのひとつで、弓なりに美しい弧を描く砂浜と海岸に沿って広がる松林がとても見事です。 

 

 

さらに葉山は、隠れ家的な料理屋やレストラン、スイーツの名店などが たくさんある美食の宝庫でもあるのです。 

 

和菓子屋さんも3軒あり、その中でも一番よく足を運ぶのが、今日ご紹介する「永楽家(えいらくや)」さんです。

 

昭和天皇がお気に入りだったお店としても有名で、天皇が御用邸に滞在される時には、いつも永楽家さんのまんじゅうをお召し上がりになったそうですよ。 

 

 

海岸通りに面したお店は、明治42年創業という老舗だけあって、小さいながらも存在感のある外観です。 木彫りの重厚な看板が歴史を物語っていますね。 

 

店内も実によく整理整頓されていて、商品見本や菓子箱などをごたごたたくさん並べているお店が多い中、余分なものは一切置かず、中央にきれいに磨き上げられた重厚なショーケースがあるのみ。 

 

かといって殺風景ではなく、品よく季節の花が活けられていたり、レトロなレジスターやアンティーク小物などが見事なバランスで配置されていて、店内の雰囲気としては、いろいろ行った和菓子店の中で一番好きですね。 

 

商品の数は7〜8種類と決して多くはありませんが、少数精鋭、どれも丁寧に作られています。 

 

 

イチオシの名物は、あわびの形をそのまま写したあわび最中。

 

「あわび最中(あわびもなか)」 

中の自家製つぶ餡は、香ばしい皮とよくマッチしていて、外はパリパリ、中はしっとりと、理想的な最中に仕上がっています。

 

 

こちらが昭和天皇がお気に入りだったお饅頭です。 

 

「黒糖まんじゅう(こくとうまんじゅう)」 

波照間島産の黒糖入りの生地で黒糖餡を包んだお饅頭です。

 

お茶請けのお菓子(茶の子)から転じて「茶まんじゅう」とも呼ばれます。また、千利休が好んだことから「利休まんじゅう」、黒砂糖の産地である奄美大島にちなんで「大島まんじゅう」とも呼ばれます。

 

高級和菓子で使われる黒糖は波照間島産のものが人気ですね。

 

沖縄では、伊平屋島、粟国島、多良間島、小浜島産、西表島、伊江島、与那国島、そして波照間島の8カ所で黒糖が作られていますが、その中で品質が一番いいのが波照間島産だそうです。

 

幾重にも重なり押し寄せてくるふくよかな甘みの中に、ほろ苦さもあり、それでいて雑味のない独特の風味が味わえる逸品ですね。 

 

 

「桜餅(さくらもち)」 

小麦粉を水溶きし、わずかに桜色に染め、薄くのばして焼いた生地でこし餡を包み、それをさらに塩漬けの桜葉でくるんだお菓子です。 

 

典型的な関東風の長命寺(ちょうめいじ)桜餅ですね。 

 

 

「朧月(おぼろづき)」葛製 

葛に砂糖を加えて煉り上げた生地で小豆こし餡を包み丸く固め、きな粉をまぶしたお菓子です。 

 

靄 (もや) に包まれ、柔らかくほのかにかすんで見える春の夜の月に見立てています。 

 

葛ならではのプリッとした食感が持ち味ですが、簡素な形といい、きな粉をかぶった色合いといい、素朴ながら風格を感じる逸品ですね。

 

 

「うぐいす」煉切製 

緑と白にぼかし染めた煉切で小豆こし餡を包み、茶巾絞りにてうぐいすをかたどったお菓子です。 

 

このような手技のみで作られる「手形もの」は、制作した個数だけ全部表情の違う作品が出来上がり、手作りならではの趣を感じることができますね。 

 

 

「葉山桜山古墳まんじゅう(はやまさくらやまこふんまんじゅう)」

桜餡入りの饅頭に焼印で桜花と建物が描かれています。 

 

これはつくね芋を使って作る薯蕷饅頭と違い、糀(こうじ)の発酵力を利用して小麦の皮を膨らませる酒饅頭です。 

 

お酒のほのかな香りと桜餡の甘さのバランスが絶妙でした。 

 

桜山古墳は、現存する遺構として神奈川県内最大級の規模を有する2基の前方後円墳で、平成14 年に発見されたばかりの新名所です。

 

 

買ったばかりのお菓子はお店に預けて、しばしビーチを散策。 

 

 

潮騒の心地よいリズムがやさしく身体を包み込んでくれます。 

 

 

波打ち際で刻み込んだ足跡は、すぐさま波が洗い流していきます。 

 

 

カヌーを操る人影が、銀色に輝く波間にゆっくり進んでいきます。 

 

いろいろな表情をみせる海は、いくらみていても見飽きることがありませんね。