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「森八」さん

 

金沢へ上生菓子探訪の旅に行ってきました。 

 

今回の旅の目的は3つ。 

 

(1)森八本店に併設された「金沢菓子木型美術館」を見学する。 

(2)兼六園の庭園を眺めながら美味しい上生菓子をいただく。 

(3)森八さん、村上さん以外の地元の和菓子屋さんの上生菓子を味わう。 

 

金沢を代表する和菓子の老舗「森八」さんは北陸地方に20店舗、関東地方の有名デパート内に7店舗と、幅広く出店しています。 

 

私の家の近所のそごう横浜店にもあるおかげで、普段から森八さんの上生菓子には慣れ親しんでいます。 

 

そんなわけで、今回、森八さんの本店に行くのをとても楽しみにしていました。

 

森八さんは1625年(寛永2年)創業といいますから、約400年もの歴史を誇る名店で、その間に作られた菓子木型千数百点が展示されている「金沢菓子木型美術館」が本店の2階に併設されています。

 

 

内部は撮影禁止ですので、他のサイトから写真を拝借しました。 

 

室内は暗めの照明になっていて、天井には星空をイメージした約3万本の光ファイバーが輝き、木型が浮かび上がるようなライティング演出がなされています。 

 

(出典:http://www.g-mark.org/award/describe/39385)

 

中央は精巧に作られた牡丹の工芸菓子と巨大木型のコーナーになっていて、そのまわりを取り囲むようにショーケースが設置され、中に隙間なく木型が展示されています。 

 

(出典:http://www.morihachi.co.jp/archives/415) 

 

通路の部分も両壁が全面陳列棚になっており、びっしり木型が並んでいます。

 

(出典:http://www.sokenbicha.jp/fun/kikou/15/01.html) 

 

文献によると、菓子木型は寛永年間(1624〜1644年)の初期に出現したと推定され、文政期(1818〜1830年)に入って完成の域に達したとされています。 

 

ということは、森八さんの創業が1625年ですから、木型の登場とともに森八さんが事業を開始したということになり、森八さんの歴史がまさに木型の歴史を表すといっても過言ではないでしょう。 

 

木型を使って作られるお菓子は主に次の三種類があります。 

 

(1)干菓子(落雁)  

(2)砂糖菓子(金花糖)  

(3)生菓子(煉切、餡菓子) 

 

金花糖というのは、煮溶かした砂糖を木型に流し込み、冷やし固め、食紅で彩色した砂糖菓子のことで、以前は結婚式の引き出物や節句祝いなどによく用いられていました。

 

(出典:http://www.morihachi.co.jp/archives/1745) 

 

 

菓子木型に使われる木の材質は桜がほとんどで、樹齢70〜100年に及ぶ山桜を切り出し、最短5、6年から20〜30年も自然乾燥させたものを使うそうです。

 

桜の木は堅く丈夫できめ細やかな上、くるいが少ないので最適な材料になります。 

 

今回の見学で何より驚いたのは木型に彫られたテーマの種類の多さですね。 

 

松、竹、笹、梅、桜、桃、牡丹、蓮、菊、楓、いちょう、鶴、亀、つばめ、キジ、鯛、えび、蟹、鮎、鯉、巻き貝、せみ、大根、蓮根、たけのこ、きゅうり、なす、松茸、ぶどう、ざくろ、バナナ、氷、翁、媼、能面、扇子、国旗、簾麩、宝船、手鞠、糸巻き、茶釜、御所車、花車、紋章、社章、校章、文字、幾何学模様などなど、記憶に残っているものをざっと挙げただけでもこれだけあります。 

 

用途も様々で、加賀藩の紋型や宮家への献上品はもとより、冠婚葬祭に使われたもの、年中行事にちなんだもの、茶会用、神仏のお供え、創立記念日、入学式や卒業式用、さらに戦時中の戦隊慰問のためのお土産用なんていうものもありました。  

 

とにかく、昔の日本人の和菓子に対するものすごい情熱を感じることができましたね。

 

和菓子は人々の生活に密着した、欠かすことのできないもので、事あるたびに和菓子にいろいろな思いを託し味わっていたんですね。 

 

記念日には木型を特注し、オリジナルのお菓子でお祝いするなど、現代のわれわれよりも精神的に豊かな生活を送っていたのではないでしょうか。 

 

今や3Dプリンターをはじめとした最先端技術でなんでも簡単に大量生産してしまう時代になりましたが味気ないですね。 

 

時間をかけて手彫りで木型を制作し、ひとつひとつ手作りで丁寧にお菓子を作っていたかつての時代のなんと贅沢なこと! 

 

さて、木型を思う存分楽しんだ後は、併設の「森八茶寮」でお抹茶と上生菓子をいただきました。

 

 

6種類の中から、「太郎庵」という銘の付いた椿のお菓子を選びました。 

 

 

太郎庵椿はやぶ椿の一種で、江戸中期の茶人、高田太郎庵が愛好したことでこの名があります。

 

 

中は鮮やかな黄身餡です。 

 

 

茶寮の開放感あふれる窓からは、隣にある武家屋敷寺島蔵人邸の庭を見下ろせ、ドウダンツツジの美しい紅葉がお菓子にさらなる味わいを加味してくれました。 

 

 

 

<参考文献> 

菓子木型の形と歴史に関する基礎的研究:深井康子、富山短期大学紀要第40巻 

菓子木型と引き菓子の歴史 :若松屋 

金沢の菓子木型:森嘉紀