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思い出の夏薔薇(彩花苑)

「バラ」煉切製:彩花苑 

紅色と白にぼかし染めた煉切を花びらの形に作り、内側から幾重にも重ね合わせて、バラの花を写しています。

 

 

角度を変えると、バラの表情も変わります。 

 

 

断面がまた美しい!まるで地層のような赤い縞模様、赤い大理石のようにも見えますね。

 

このバラのお菓子と対面したとたん、子供の頃、ある岬で見た夏薔薇のことを思い出しました。 

 

 

私の生まれ故郷である瀬戸内海のとある島での出来事です。 

 

私の実家からそう遠くない場所に、船の舳先が海へ突き出たような小さな岬がありました。その岬の突端に、移り住む人もなくひっそりと建っている一軒の空家がありました。 

 

親からは決して行ってはいけないと言われていましたが、ある夏の午後、私はどうしてもその家を近くで見てみたくなって、崖に沿ってうねるように続く小道を登って行ったのです。

 

ほとんど行き来する人もなく、伸び放題の草に覆われた坂道を掻き分けながら進みました。 

 

私を駆り立てたその家は、岬の下から見ると、大きな切り妻屋根と煉瓦造りの煙突、それに、屋根窓などが木々の間から見え隠れし、当時は珍しかったその洋風の佇まいにすっかり魅了されていたのでした。 

 

ようやく視界が開けて、その家の門柱の前にたどり着いたとき、敷地の周りにはまるでその家を覆い隠すかのように、薔薇の茂みが茂り放題に茂り、息を呑むような美しい夏薔薇が、むせかえるような香りとともに、一面に咲き乱れていたのです。 

 

その薔薇の茂みの間からは、すらりと美しく伸びた玄関の柱、手の込んだテラスの欄干、野面石張りの円筒状の外壁などが見え、それはそれは想像以上の豪華な建物でした。 

 

そうとうのお金持ちが住んでいた別荘だったのでしょう。薔薇のトゲに守られていたおかげもあってか、朽ちた様子もなく、ちょうど西へ傾きかけた太陽に照らされて、白い壁は黄金色に輝いていました。