「下萌(したもえ)」浮島製:千草庵
早春に、冬枯れの草や残雪の中に隠れるように草の芽が生え出ることを下萌(したもえ)といいます。下萌の「下」は「枯草の下」「淡雪の下」の意味です。
下萌には、確かな春の訪れと厳しい冬を耐えた生命力が感じられますね。
今日のお菓子は、複数の技法を重ね合わせた美しい棹ものです。残雪に見立てた薯蕷製の浮島に、枯草に見立てた羊羹を合わせ、その間に豌豆(えんどう)を潜ませ、地中からわずかに萌え出づる若草を見事に表現しています。
萌え出る若々しい緑に、大地のエネルギーを感じる早春の情景ですね。
春日野の 下萌えわたる 草の上に つれなく見ゆる 春の淡雪
(【通釈】春日野はいちめん芽が萌え出しているのに、草の上にはそれを知らぬげに春の淡雪が消えずに残っている。)
こんな新古今和歌集の歌の世界にもぴったりなお菓子です。